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少子高齢化の時代にあった“ミニベーカリー”起業支援「おかやま工房・リエゾンプロジェクト」

いま日本の食卓である大きな変化が起きています。2011年以来、パン食のシェアが米食より大きくなっており、その傾向は続いているそうです。人口減のこれからの日本でも、パン食市場は拡大し続けるだろうと予測し、そのチャンスを活かすためのミニベーカリー起業を支援する河上祐隆(かわかみ つねたか)さん。岡山に2件の大人気ベーカリーを経営し、その経営ノウハウを「リエゾンプロジェクト」として後進の起業家に伝授している河上さんに少子高齢化が進む中での起業や、人のマネジメントについてお伺いしました。

2017年11月06日更新

河上 祐隆(株式会社おかやま工房 リエゾンプロジェクト事務局代表)

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人口減の中でも高齢者のニーズは成長する

「これから日本というのはますます少子高齢化が進み、食品市場でも高齢者のニーズがどんどん大きくなってきます。高齢者はパン食を好む傾向が強い。食事の用意がラクで、胃に優しいからです。高齢者の数が増えることによって、人口減の中でもパンの需要は大きくなっていく可能性が高いのです。それがグラフの数字にも表れているといえます。」

データを示しながらお話しをする、株式会社おかやま工房社長・河上祐隆(かわかみ つねたか)さん。岡山に2件の大人気ベーカリーを経営し、その経営ノウハウを「リエゾンプロジェクト」として後進の起業家に伝授していらっしゃいます。その口調は関西弁にユーモア混じりですが、分析内容はデータに裏付けられ驚くように鮮やか。パッとお話する姿だけを見ると、まるでコンサルタントのようです。

「リエゾンプロジェクト」は河上さんが提供する小規模ベーカリーの起業サポートシステムです。素人がたったの5日間の研修で「ミニベーカリー」を開業し、開店した多くの店舗が繁盛しているといいます。長時間の肉体労働、長期間の修行、厳しい徒弟制度が当然とされてきたベーカリー業界では革命的な起業サポートシステムです。

サラリーマン生活20年、料理経験ゼロ、といった男性が、たった5日間の研修後に小さな店舗を借りて開業し、次々と支店を開くほどの成功を収める…現代のおとぎ話のようですよね!?しかし、これは本当の話。現在、日本全国で150店舗がリエゾンプロジェクトで起業、経営に成功しています。

1件のパン屋からビジネス展開したコツは?

河上さんはパン職人として腕一本からここまでのビジネスを立ち上げました。一件のパン屋が日本中でベーカリー起業を支援し、海外からもオファーが絶えない…河上さんに「スモールビジネスを大きく育てるコツは何ですか?」と伺ったところ、こんな答えを頂きました。

「小さな商売が大きなところを目指す、ですか?僕にはわからないです。目指したことがないので…。今ここにあるすべては結果でしかなくてね。パン業界に入ったのも、たまたま大学進学の頃に親の商売が破産して、一家離散して夜逃げしたのがきっかけです。その日食べるものがありませんでした。母親を養うために、食に携わる仕事をしようと。寿司屋でもラーメン屋でもよかったんです。」

突然の一家離散がきっかけで製パン業界の扉をたたいた河上さん。パン職人になったのも、たまたま拾った新聞の求人情報欄にパン職人が募集されていただけだと言います。

「寿司屋に入っていたら、今頃ミニ寿司屋の開業支援をやっているはずです。ラーメン屋だったらミニラーメン屋。スイーツだったらミニスイーツ屋の開業支援をやっているでしょう。たまたまベーカリーに入ったのでミニベーカリーの開業支援。」

自分が入った製パン業界は個人商店が多いものの、そもそも巨大な市場をもつ産業だった、そこでがんばった結果が現在に繋がった。と淡々と語る河上さん。大きな夢を持て…と若い人に説くのは簡単ですが、河上さんは過酷な境遇で仕事に就いて、その時その時をがむしゃらにがんばる、という経験を重ねてここまで来たと言います。

「母の面倒をみるために、今も面倒を見続けていますが、僕はお金を稼がなくてはいけなかった。若いころは、お金、お金で働き続けた結果、22歳で独立させてもらって、そのあとも、仕事、仕事で、ちょっと人間らしくなったのは30過ぎたぐらいからです。いまだに古い知り合いからは『あの頃のお前の目は怖かった』と言われます。その後は求められるから、求められたことをやっているだけなんですよ。将来のビジョンとか夢とか追っているわけではなく。

リエゾンプロジェクトのアイディアも、あるイタリアン・レストランさんがミニベーカリーをやってみたい、それも短期間の準備で、と依頼をしてくださって始まったことですし、今インドネシア・インド・マレーシア・中国・アメリカ・カナダ…と海外展開しているのも、自分から海外でやりたいなんておもったことはさらさらなく、海外からオファーをいただいてのことです。人の役に立ちたいなというのが私の原点。」

「ベーカリーは職人が命」が常識。でも職人は雇わない。

製パンの素人が起業してベーカリーを開こうとすれば、パンを焼ける職人を雇わなくてはいけません。ベーカリーは職人が命、というのは日本のベーカリー業界だけでなく、世界的にも常識だと河上さんは言います。

「でも僕は『職人レス・ベーカリー』を作ろうと目指したんです。起業する本人に5日間の製パン研修を受けてもらいます。たったの5日間でパンは焼けるようになります。しかも、無添加生地、国産小麦100%使用、焼き立てを一日に何度も届ける美味しいパン屋です。」

パンを作るとき、職人と職人でない人の違いは何かというと、手の感覚を使うか使わないかだと河上さんは言います。職人は何年もかけて先輩から『だいたいこの固さだよ』というのを教わるのだそうです。

「当時はよく現場で『耳たぶの固さだよ』と言われたんですね。『僕の耳たぶと店長の耳たぶと固さ違いますけど?』と思ってました。…そんなこと言うと殴られたりしますので『耳たぶですかぁ。』とか言ったり。『この固さだ』と教えられても、みんな指も違うし、感覚なんて人それぞれだし。そういう中で、感覚ではなく、きちっと数値化というか、レシピ化ってものをすれば、これは未経験の人でベーカリーができるぞ、と。“手の感覚”を使うのがパン作りにはいいんです。でもその修業は長く、全員が耐えられるものではない。ならば“手の感覚”はすべて数値化してしまえ、と。」

もともと数字に強かった河上さんは、この“手の感覚”の数値化に成功し、その再現を誰もがいつでも出来るようにしました。

「ただ、その中でも技術のいるパンというのはやっぱりあるんですよ。技術の高いパンが売れるかというと、そうでもなくて。すごい職人がやっているパン屋さんが日商100万円いくかというとそうでもなくて。商売をしたい人にとっては、売れるパンが大事です。結局、売れるパン屋っていうのはお客様のニーズ・ウォンツをよくわかったうえで、それを商品化して経営して利益を出さなくてはいけない。」

お客様もベーカリーもハッピーでなければならない

河上さんの『職人レス・ベーカリー』の発想はどこから生まれたのでしょうか?

「22歳で直営店を創業しまして、パン屋はパンを一生懸命作ってナンボだ、と思っていたんです。長時間労働は当たり前という業界ですから、家族にも迷惑かけました。『いつまでこの長時間労働をするの?体力が落ちたらどうするの?続けられないよ。頭を使ってパン屋を経営したら?』と言われたんです。

自分がいつまでも先頭に立って工房で一生懸命パン作って、弟子を育てて。教えて独立させて…で、独立させると、また人手が足りなくなって…この繰り返しじゃないですか。日商100万円を超える2店舗を経営しながら、店長が独立するたびに自分が代わりに工房に入って朝から晩までパンを焼かないといけなかったんですよ。これ、年取ってもできることじゃないな、と。」

河上さんが目指す『職人レス・ベーカリー』は、利益を上げるために人件費を削減しているのですが、結果的には無駄な残業や効率の悪い根性論を排除することにもつながると言います。

「ちゃんと利益を出そうと思うと、無限に手間をかけてはいけない。日本は人件費が高いので利益が出ないんです。レシピを作る時も、まず製造人件費を出すのがとても大事です。これ100個作るのにどれぐらい時間がかかるの?1個に対する製造人件費を計算しなさい、と。原価よりも製造人件費を重視するんです。

これは従業員を使ってホワイトな労働環境を提供するためには必要なことなんです。従業員が完全週休2日、8時間労働で残業禁止というのは、ごく普通だけどベーカリー業界ではなかなかない。私どもの会社では、8時間で結果を出せ。8時間働いて、8時間寝て、8時間遊べ、と。楽しくないとダメだから。」

イマドキの若者をマネジメントするには?

職人ではなくても、やはり工房では人間が生地をこねたり、パンを焼いたりしなくてはなりません。残業ゼロのように、効率的に人を働かせるためのマネジメントにはどんなコツがあるのでしょうか?

「僕のやり方では、責任者というのは、置かない。これも時代だとは思いますが、責任者は責任でつぶれていく。メンタルの弱い若い人が増えてしまったのでね。我々の時代は殴られ蹴られてもナニクソと思って働く若い人が多かったですけど、いま殴ったら、もちろん捕まります。『どつくぞ!』と言おうものなら、もうパワハラですから。僕は関西弁なので岡山で店を持ったとき、工房で関西弁を使うとみんな泣き出す…みたいなこともありました。『怖い』って。『何しとんのや、あほやなぁ』って言ったら、もう泣きだす。関西人は『あほやな』『すんませ~ん』で済むんですけどね…。」

朝から晩までパン工房で指示を出す河上さんにしたら、次々に泣き出すスタッフには困り果てたことでしょう。

「メンタルの弱い若い人が増えてきたな、責任というのが最近の若い人をつぶしていくんだな、と学びました。大きな責任をもってがんばります、っていう人間はほんとに減ってしまって。みんなに協力してもらって、ちょっとづつ責任もってやってもらう。責任者が責任を一人で背負わない。今の時代のマネジメントです。うちはそんなふうで、パン業界のほかの職場でうつ病でやめたスタッフでも、元気に働ける職場なんです。」

5日間の製パン研修で信頼関係が築けるのか?

リエゾンプロジェクトは5日間の研修でベーカリーとして独立させる、という業界の常識破りだったため、最初はまったく世間から相手にされなかったといいます。会社は最初の2年間成果が出ず、倒産しかけるような状況になりました。リエゾンプロジェクトの研修に来られる方との信頼関係というのは、そんな中でどうやって築いていったのでしょうか?

「信頼してもらうには事業の実績度がないとダメです。一気に店舗をやりたい人が増えだしたのは大阪と東京にリエゾンプロジェクトのパン屋さんが開業して、どちらもけっこう繁盛なさったから。それを『やろうかな』と思ってる方が見に来て、店主さんたちにインタビューされるわけです。

私自身がいくらできるといったところで、30年のキャリアがあるベテランが成功するのは当たり前としか見られない。でもこの新しい店主さんたちは、サラリーマン20年やってやりました、この人はサラリーマン30年やって50何歳でやりました、どうぞ見てくださいと。で、それで、一気に、ほんとに『あ、ほんとなんだ、この人はサラリーマンをやって料理もできないのに、パン屋として成功したんだ』となったわけです。現在は150店舗まで増えているわけです。」

リエゾンプロジェクトの広がり方は、いかにも河上さんらしい、現実と取り組んで徹底的に成果を出し、それを見てもらうというやり方が功を奏したそうです。

「言葉なんて信用されない。興味がある人は自分の住んでる周りにあるリエゾンプロジェクトのパン屋さんに聞きに行く。実際にオーナーをされてる方に根ほり葉ほり聞きます。店主さんには、商売の邪魔にならないように、申し訳ないなと思うんですけど。そういうのに答えてくれるオーナーさんの中には『リエゾンプロジェクトのおかげで幸せになりました!』とまで言ってくれる人もいます。」

このところ、海外からの依頼も多く、飛行機で飛び回っているという河上さん、インタビューの最後にはこんなエピソードも紹介してくれました。

「リエゾンプロジェクトのメンバーからは、僕個人がすごい信頼を得て『河上さんにいなくなられたらこまります!危ない地域は行かないでください!』と頼まれるんですけど、下をしっかり育てていますので、僕がいなくても大丈夫なんです。岡山の直営店の売り上げは伸び続けていますが、もう10年近くも僕自身は厨房に入っていないんです。すべて任せてうまく回る状態をつくってあるんです。だから店主さんたちも僕がいなくても大丈夫ですよ、って。」

リエゾンプロジェクトの職人レスベーカリーは、ベテラン職人やフランチャイズ本部などに頼らなくてもきちんと成果が出せる、そんなビジネスを起業したい人に向いているのかも知れません。

(ライター:小林晶子)

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