趣味・仕事・起業

トップストラテジスト・広木隆さんに聞く『人生100年時代』の投資術&仕事術

長年にわたりトッププレイヤーの一人として株式投資の世界を見続けてきた、マネックス証券株式会社執行役員/チーフストラテジストの広木隆(ひろき たかし)先生のインタビュー第二弾。「人生100年時代」に突入したと言われる現代。長くなった人生設計とより大きな資産形成にどう取り組むべきか。広木先生はそのカギが「起業」と「副業」にあるとおっしゃいます。トップアナリストが語る「人生100年時代の起業・副業のススメ」は、これからの私たちに必要なマインドは何かを教えてくれそうです。

2017年10月13日更新

広木 隆(マネックス証券株式会社 執行役員 チーフ・ストラテジスト)

  • fb
  • line

20代・40代・60代…世代別の投資術とは?

―世代別の投資ということで言うと、20代の投資、40代の投資、60代の投資、それぞれにどんな違いがあるのでしょうか?

「コンサルタントやファイナンシャルプランナーに聞けば、年代別にアロケーション(資産配分)を変えたりする細かいテクニックを教えてもらえますね。若い人は時間を味方にできるので目先の配当よりも成長性がある株式のウェイトを高くしよう。守りに入る世代は安全資産が多くて、配当収入が入ってきて、リスクを避けて…など。

だけどこれからの60代は守りなんて言っている場合ではない。これからは『ライフシフト(*1)』』にいう『人生100年時代』です。60代だって資産運用を長期で考えるべきです。細かいテクニックは別として、基本はどの年代にも同じです。長期にマーケットにとどまり続けるために、いろいろなものに分散し、一つ一つの投資を小さく賭けていくことです。

(*1)リンダ・グラットン氏の著作。かつてない長寿社会を生き抜くため、激変する世の中で、どう働き・どう生きるかを提言

余裕がない・苦しい人こそ投資をしたほうがいい

「全世界で同時進行しているのは格差拡大です。日本はアメリカのように貧富の差はあまりないけれど、下への格差がすごくあって、いまや子供の貧困率は6人に1人、シングルマザーの子供の貧困率はなんと2人に1人に跳ね上がると言われています。これからますます仕事がなくなって働けなくなってくる時代に、そういう人たちこそ苦しくても投資をしていくべきだと思います。」

―ますます仕事がなくなる、貧富の差が拡大する、それはショッキングなお話です。どうしてそんなことが言えるのでしょうか?

「生活が苦しいのはどうしてか、仕事がない、働けないから。昔はパート労働の代名詞だった“レジ打ち”ですら、いまやテクノロジーの進化でなくなってきています。私の自宅近くのスーパーはレジが自動精算機になってしまいました。大手衣料チェーンのGUなども買い物カゴごと機械が値段を読み込むので、クレジットカードを通せば終わりのセルフレジです。これが加速するとAmazonがやっているようにまったくの無人店舗となり、入口がレジになっていて、スマホをかざして入店し、モノを持って店舗を出るだけで清算が済んでいるということになってしまいます。レジ打ちはなくなります。そうすると単純労働に依存していたシングルマザー家庭などは仕事がなくなります。そういう人たちこそ投資でリターンを取っていかないといけないんじゃないかなと思うんです。」

AIの労働市場への参入に備えるには

―豊かでない人こそ投資すべき…というのは、驚くべきご主張ですね。

「今のAIはまだまだ初歩だからいいんですが、これが進化していくとほとんどAIで人間の仕事が代替できるようになります。すると人間の仕事がなくなっちゃう。どうやっても就業できない層が現れます。これを受けて全世界で導入への検討が始まっているのが『ベーシックインカム』といい、国民全員に最低所得を給付する手法です。この検討や検証がオランダや北欧諸国で進んでおり、スイスでは国民投票まで行われました。社会保障制度としてベーシックインカムを検討するこの動きはますます加速しています。」

「今までは生活のために労働してきたけど、これからは労働すること自体が贅沢という時代が来るかもしれない。そうなったときに働けなくて、国からもらうベーシックインカムだけに頼るのか。自分で投資してお金に働いてもらうという世界もある、ということに早く気づいてほしいですね。」

―投資は富裕層でない人々にも、そこまで身近になれるでしょうか?

「今の世の中、スマホなんて誰でも持っています。これを通して投資というのが身近になっていく可能性は充分あります。中国では決済はもはやスマホアプリで済んでしまう。スマホに入っている金融アプリの決済機能で決済が済んでしまい、中国人の生活インフラになっている。爆発的に普及しているんです。10年前にこんなものが現れるとは誰もわからなかったように、スマホを通して庶民にも投資が爆発的に普及してくる可能性があります。銀行口座や投資口座に紐づいたものになるのです。

日本でも国が制度改革でiDeco(確定拠出年金)・NiSA(少額投資非課税制度)など、長期運用プログラムなど用意し始めました。そういう制度とテクノロジーの普及で投資が身近になると格差も少しは是正されるのではないでしょうか。」

日本人の投資アレルギーと80年代バブル

―環境は整っても、日本人の投資アレルギーは投資の普及のネックとなるのでは?日本人がここまで投資を嫌うマインドはどうして醸成されたのでしょうか?

「日本に投資が根付いていないのには複雑な要因があるのですが、80年代後半のバブルがあまりにもすごかった。その一言なんです。あれがもう完全にやりすぎで、その清算に20年かかってしまった。平成元年だった1989年に日経平均は3万8900円という史上最高値をつけて、その直後にバブルが崩壊しました。平成の最初の20年間というのはそのバブルの清算にあてられた時代だった。何をやっても儲からない。あまりに80年代の、昭和最後のバブルが凄すぎたので、その反動で誰も儲からない20年を過ごしてしまった。投資で儲かった体験がない。デフレが進み、お金で持っていたほうがよっぽどよかった。モノの価格がどんどん下がるから現金で持っていた人が大正解だった。投資なんかしないほうが大正解だった。インフレもこなくて、デフレが続いて、株が下がり続けた。そういう時代が20年間続いてしまったので投資が根付かなかった。それが一番わかりやすい説明です。

でも平成の世の中が終わりかけて、ようやくそのデフレ時代も終わり、株価は実は平成最後の10年間、上がり始めています。アメリカと同じように年率6-7%でちゃんと資本が成長しているトレンドに入っているので、これがあと10年続けばみんな自信を取り戻す。株式投資って儲かるんだ、とわかるようになる。もうバブル清算期から脱却しているのだけれど人々の認識がまだ追い付いていないので早く気づくべき。いま世界中の株価というのは米国を中心に史上最高値を記録している。日本だけがそこに達していないんです。」

日本人にとっての投資とギャンブル

―日本人にとって投資はいまだギャンブル、労働で得たお金こそが尊いという考え方が根強いですよね。

「そこは人間の心の会計というやつで、労働して得た10万円と投資で得た10万円、お金に色がついているんじゃないけれど、投資で得たお金は無駄遣いしがちです。だけどお金に色がついているわけじゃない。投資とギャンブルをはき違えて、投資が浮かれたお金だと思うのは間違いです。これからの人に必要なのは収入口を増やすこと。確実な労働と不確実な投資を組み合わせていくのが大事なんです。労働だって病気のリスク、失業のリスクと隣り合わせです。大企業でさえ傾いてしまい、従業員がリストラされる可能性が高い時代、所得を自分の労働一本にしておくのではなく、投資からのリターンが入るようにしておくのは大事です。」

「日本人は堅実に見えて実は博打好き・ギャンブル好きだと思います。町中にこれほどのパチンコ屋が溢れている国は他にない。その上に、競馬・競輪・競艇、公営ギャンブルだらけです。FX(証拠金取引)も言ってみればギャンブル同然ですが、日本人の取引シェアが圧倒的です。ビットコイン取引高も日本人が一番です。あれは投機以外の何物でもありません。こんなギャンブル大国はない。その一方でまっとうな投資というのはまったく根付かない。いちばんわかりやすいのは成功体験がないからです。

株式投資は本来、利益を生むものです。リスクをとって資本にお金を拠出すると相応のリターンがある。株式という資本の生み出す収益率は年間6~8%という長期的統計があり、はるかに経済成長率よりも高い。これからの時代、一生懸命働いても賃金が上がらない。低成長です。でも一方で資本の力というのがありそれは6~8%で伸びていく。早くみんなこのことに気づいて資産形成していく必要があるんじゃないかと思います。」

―ROE(株主資本利益率)というのは、先生がよく口にされる言葉です。

「日本人は投資や資本が生み出す力をもっともっと意識すべきです。だから僕がこの仕事をやっていて、大学でROE(リターン・オン・エクイティ)とか、自分がかかわってきた日本のマーケットがもっと良くなってほしい、立ち直って欲しいと訴えるということをずっとやっています。ROE普及を通して日本の企業を変えようという何人か同志みたいなひともいるんです。一番最初は相場の話を自分のマネックス証券のお客さんに伝えるというのが第一だったのですが(笑)。」

副業・複業・福業は社会の生産性を高める

―日本社会の生産性ということで言いますと、副業、複業、福業を目指す、という当サイトの主張はどうお考えでしょうか(笑)?

「大賛成です。ROEの授業をしていて、日本の資本生産性が低いですよ、という話が必ず出てきます。いろんな問題はあるんですが、資本のいろんな定義を見ると、人的資本、工場、生産設備などがありますね。それらのうちで、優れているから稼ぎ出す部分もあるけど、日本株式会社全体で見たときには企業で働いている人たちの効率が悪い。だからROEが低いんですよ。『企業は人なり』ですから、そこで働いている人の効率を上げるのが大事です。

今までの働き方で1人が2人分働くとかはムリです。時間的に無理をすることになり、いまの働き方改革でいう生産性向上の動きと逆行します。副業をすることで1人が2人分とは言わないまでも、1.5人分だとか、1.8人分だとか働くことが可能になるわけです。これはもう日本全体の生産性が上がるようになっていくわけです。これから日本の生産人口も下がってくるのだから、これは必要なことです。

どうしても企業は従業員を縛り付けるというか、人生の全部の時間を買っている意識がある。でも大きく考えれば従業員イコール他の企業にとってはお客さんでもあるわけです。人をもっとうまく使う。人が活躍できる社会・経済を作っていかなくてはいけない。日本の副業をもっと活性化させることは日本社会を活性化させることにつながります。個人が豊かに、財布も心も豊かになって、不倫議員や芸能人を攻撃ばかりする風潮でなくなるといいですね。冒険心や欲望も経済には必須です。」

―これからの抱負を一言、お願いします。

「自分のお客さんであり、潜在的なお客さんでありうる日本の投資家、その予備軍である投資家デビューすらしていないほとんどの日本人に向けて投資の意義みたいなものを訴えていきたいですね。お金ってすべてじゃないんだけど、あったほうがいい、というものですから。」

(聞き手:小林晶子)

  • 関連するキーワード