トップストラテジスト・広木隆さんに聞く『個人投資家も勝てる』投資術とは?

長年にわたりトッププレイヤーの一人として株式投資の世界を見続けてきた、マネックス証券株式会社執行役員、チーフストラテジストの広木隆(ひろき たかし)先生。いまの日本経済と株式投資に明るさを感じているとおっしゃる広木先生に、ご自身のキャリア形成の体験談や今後の活動の展望を通して、私たち誰もが出来るこれからの投資術と資産形成についてお話を伺いました。

広木先生

2017年10月10日更新

趣味・仕事・起業

広木 隆(マネックス証券株式会社 執行役員 チーフ・ストラテジスト)

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目前に集中し全力投球すれば、キャリアは開ける

―投資の世界で長年ご活躍していらっしゃる広木先生ですが、卒業なさったのは意外にも経済学部ではなく、上智大学外国語学部のロシア語学科なんですね!今でもロシア語はお役に立ったりしますか?

「まったく立ちません(笑)!」

―(笑)どうしてロシア語を学ばれたのでしょう?

「今でこそロシアは新興国BRICS扱いですが、昔は米ソの超大国が冷戦をしていたわけです。僕はアメリカとソ連が戦争して、ソ連が勝った場合にはどうなるんだろう、英語はまぁみんな出来るし、ロシア語でも学んでリスク分散、リスクヘッジするかなと思った…」

―普通の考え方とは逆張りですね、さすがです!?

「…というのはこじつけで、ドストエフスキーなどのロシア文学が好きだったんです。当時、男子は経済学部や法学部に行くものだった。就職でつぶしが効くからです。高校の進路指導の先生には『就職できないぞ』と言われたものでした。どういう道に進みたいのか、希望とかあるだろう?そこにつながる学部を進路に選べ、と言われましたが、そんなのたかだか17-8歳の子供には無理ですよ。高校生に具体的な目標とか進路なんて、想像がつかなかったです。それよりは米ソの冷戦とか、ロシア文学のほうが興味があったので、道を決めたのです。」

―外国語学部から金融界への就職も変わっていますよね?

「卒業する段になってみると、男子は商社に就職するというのが圧倒的に多かった。僕は国際的な仕事をしたいというのが漠然としたアイディアの一つだったのですが、振り返ってみると目標なんてなかったですね。長期的目標を掲げて努力していける人は素晴らしい。でもそれが出来るのは羨ましくもあり、贅沢でもあります。家業があったりする人以外で、若いうちから進む方向性やビジョンが明確なんて人はあまりいないんじゃないでしょうか。目先のことに集中して全力でやっていくというのが普通じゃないかと思います。

当時はグローバル化と証券化(セキュリタイゼーション)の波が押し寄せていて、証券会社が積極採用していた時代でした。ロシア語学科でソビエト連邦の政治経済も勉強したのでソ連崩壊の予兆を感じていました。今後はロシアや東側諸国の資金調達ニーズが高まるとも思っていました。80年代後半の国際社会が大きな変貌を遂げる時代にグローバルな仕事をしたいと思い、証券会社に入社しました。

東と西の橋渡しになるようなプロジェクトファイナンスをやりたいな、と思って入社したんですが、配属されたのは支店営業。しかも1987年というバブルの真っただ中でした。大変なこともいっぱいあったんですが、やったらやったで面白くなって…。投資信託や株式を勧めたりする仕事をしていたんですが、お客様に勧めるからには、投資アイデアがうまくいくストーリーが必要です。銘柄について調べたり、自分なりのストーリーを考えるうちに、自分で運用をする仕事をしてみたいと思い始めました。3年働いて運用ができる仕事に転職をしました。」

社会に出て3年。自分のやりたいことが見えた

―新卒入社から3年働き、やりたいことを見つけたら転職、というのは今でこそよくありますが、当時としては珍しいですね。

「富士銀行の投資顧問会社にファンドマネージャーとして出向して、10年間資産運用の仕事をしていました。それが私の最初の運用の経験です。はじめは日本株のファンドマネージャーをやっていたんですが、当時はアジアの成長が著しかったので、自分で手を挙げて初の外国株担当マネージャーになりました。最後のころはアメリカの西海岸にある運用会社と提携し現地に駐在して商品開発したり運用をしたりしていました。10年を区切りにもう日本企業で学ぶことはあまりないなぁと思い、外資系に転職をすることにしました。フィデリティ、JPモルガンといった外資系の運用会社で経験を積んだのです。

そのうち、2007年、今からちょうど10年前に自分でヘッジファンドをやりたくなりました。当時は43-44歳、ちょうど初めて娘が生まれた時期でした。この子が生まれて、20歳になるまでずっと働くという決意をして自分のファンドを立ち上げたのですが、周囲からは『JPみたいないい会社でいい給料をもらっていて、しかも子供が生まれたタイミングに自分でファンドを始めるなんて!どうしてそんなリスクを?』と言われたものです。JPモルガンはいい会社でずっと残るだろうけど、僕がJPの中でずっと残れるかどうかはわからない。残るリスクと去るリスク、どちらがいいかと自分で考えて自分で独立したんですが、タイミングが悪かった。リーマンショックの1年前サブプライムローン問題でかなり経済がおかしくなってきたころでした。いろいろな事情から1年でそのファンドをたたむことになりました。」

「何をやるか」よりも「誰とやるか」

―40代半ばといえば、いわば仕事人盛りです。大きな決断を立て続けになさいましたね。

「自分のやりたいことだけをやり続けて走ってきた人生でしたが、自分が興したファンドがなくなってしまい、その後数社を経て考えたのが、自分のやりたいことをやるのはいいけど、何をやるかよりも、誰とやるかということが大事だというようなことを考えるようになりました。そういうときに出会ったのがマネックスの松本大氏です。マネックスの人たちはいい人が多くて、こういう人たちと一緒に働くのは、いいなぁと。」

―ファンドマネージャーからストラテジストへの転身、お仕事の違いは大きくいってなんでしょうか?

「ファンドマネージャーという仕事は自分の中で完結します。自分で調べて・考えて・自分でストーリーを考えてリスクをとって投資する、その結果は自分のリターンとして数字として表れてくる。全部自分の責任と成果です。自己完結の仕事じゃない仕事をやってみようか、というのが現在の仕事を始めた時の大きな変化でしょうか。大和証券を辞めてから丸20年間、バイサイドという運用の仕事をやってきて、今度は自分から発信してメッセージや情報を伝えようという仕事をしようというわけです。

人に自分の考えを伝え、人に投資を促し、背中を押して参考にしてもらう仕事をしようというのは、マーケットをみて相場を相手にしているのは同じながら、最後のアウトプットの仕方が違う。それをマネックスでやりはじめた。もう7年間になります。」

プロと個人投資家の違いと共通点とは?

―プロとして運用する規模とマネックス証券で個人投資家が運用する額は違いますよね?それでも金額の大小に拘わらず「あてはまるポイント」はあるのでしょうか?

「将来の予測ができないのは機関投資家でも個人投資家でもまったく同じ。どんなすごいツールやAI、スーパーコンピューターを使っても完全な将来予測はできません。そこは同じだと思います。」

―反対に、個人投資家は真似してはいけないポイントってありますか?

「プロはショーターミズムといい、短視眼的に成果を求められる。決算年度、今年度の成績、この四半期ベンチマークに勝った負けた…など。きわめて短い期間で評価されます。個人投資家には決算期なんてない、死ぬまで投資していればいいわけです。誰かの評価に晒されることはない。これは個人投資家のアドバンテージです。」

―広木先生は常に周りを見渡して、何が起こっているのか感じて考え、何をしようか決めていらっしゃるように感じます。それは投資向きの性格なのでは?

「そうですね。経済やマーケットは生き物だから。私の授業は毎年内容が違います。今起きているニュースや事象を取り上げているのですから。コアメッセージや基本テーマは同じでも、素材が全然違ってくるので毎回違ったものになります。だから準備が大変です。でもそれはビジネススクールでビジネスを教える、経済を教える、マーケットを考えるなら当たり前のことなんです。日々変わっていってるんだから。

私の好きなジョークがあります。あるビジネスマンとその大学の恩師の話です。

“あるビジネスマンの息子が、めでたく自分と同じ大学に入学し、自分の恩師の授業を受けることになった。ある日、息子のテスト問題を見ると、自分が受けていた時代の問題とまったく変わっていなかった。聞けばもう何十年も問題は変わっていないという。そのビジネスマンは大学に恩師を訪ね詰め寄った。

『先生、テスト問題は私が学生の頃と同じではないですか!経済学には進歩というものはないんですか?』

『問題は同じでいいんじゃよ。正解のほうが毎年変わるんだから』”

個人投資家が今日から実践できるアドバイス

―経済や投資には変化や不確実がつきもの、という点を踏まえて、個人投資家が実践できるアドバイスを頂けないでしょうか。

「投資のアイディアで、ひとつよく言われるのは『Small Bet 小さく賭ける』ということです。もともとはビジネスのやり方を表す言葉です。今みたいに時代がどんどんすごいスピードで変化するときに、中期5か年計画なんて立てていたら間に合わない。それよりも、いいアイディアがあればすぐに投資をする、だけど少額にしておいて、失敗だとわかったらすぐに撤退する。それを繰り返すという考え方です。この時代の投資にもあてはまります。

長期で運用していくと、株のリターンというのはだいたい年間6~8%なんですね、これが複利でまわっていくと莫大な効果になります。一回でドーンと突っ込んで失敗したらそれが致命傷になって一発退場となってしまう。そうしたら長期投資どころではなくなる。先のことなんて誰もわからないんだから、常に投資を長期間投資できるように、マーケットに長く生き残る、それが大事です。一回で失敗して致命傷を負い、一発退場とならないためには、分散投資と長期投資が基本です。ウォーレン・バフェットの右腕と言われるチャーリー・マンガーは分散投資や小さく賭けることに否定的ですが、それは彼らが天才だから。普通のひとは分散投資をこころがけましょう」

―ファイナンスインテリジェンスを広げていく活動をなさっていくうえで、今後の展望をお聞かせください。

「もっと多くのひとに投資や資産形成の意義を伝えたいと感じています。これからAIやテクノロジーの台頭で生きるのが難しい時代になってくる。働くこと一つとっても、AIやテクノロジーとどう協調していけばいいのか、若い世代にとってもシニアにとってもチャレンジが待っています。本業で働くことに加え、投資や資産形成をすることを、日本人にはぜひ考えてほしいのです。投資や資本が生み出す力を知る必要があるのです。

長期で運用する株のリターンというのはだいたい年間6~8%で経済成長率よりはるかに高い。それを享受し続けることが重要なのに、この事実を知らない人が圧倒的に多い。とくに日本では知らない人が多すぎる。今まで日本にはまったく投資が根付いてこなかったのは80年代後半のバブルがひどすぎたせいだが、今やもう清算は済んでおり、株式投資を始めるのにいいタイミングです。株式投資をできるだけ多くの人に普及させて、富裕層だけでなく様々な層の人に、いろんな形で役に立てればなと思っています。」

―わかりやすく、貴重なお話をありがとうございました。

(聞き手:小林晶子)

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