日本舞踊を通して日本の心を学ぶ「花柳琴臣 日本舞踊教室」

習い事を始めるときに「お金がかかりそう」「年季が入っていないとダメなのでは」といったイメージを抱きがちな日本舞踊。これに一石を投じようと、みずから一般向けのワークショップや学校教育の場にどんどん出向いて、意欲的な活動をしているのが花柳流舞踊家の花柳琴臣(はなやぎ ことおみ)先生。海外でも活躍する舞踊家の琴臣先生が日本舞踊を通して伝えたいのは何なのか、また、そのためにどんな工夫をなさっているのかお伺いしました。

2017年09月20日更新

アート・デザイン

花柳 琴臣(日本舞踊家)

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「お稽古場」は世界で踊るための拠り所

「和服を着て、そして踊りを見せると、どこの国に行っても喜ばれる。日本人でよかった、日本舞踊をできてよかったと自分で感じます。」

そう語るのは花柳琴臣(はなやぎ ことおみ)先生。日本舞踊家として国内外で活動しています。2014年には世界最大級の芸術祭であるスコットランド・エジンバラフェスティバルフリンジに出演し、最高評価五つ星を獲得。いまや国内外から注目される日本舞踊家です。

さまざまなジャンルの公演にて活躍すると同時に、 振付・所作指導と呼ばれる、舞台やテレビでの指導も行っています。記憶に新しいところでは、昔話のキャラクターが生き生きと冗談を言い合うスマホのCM。ヒロイン役のお姫様の身振り・手振りは琴臣先生の監修です。

琴臣先生のお稽古場は東十条駅から徒歩5分の住宅街にある、一見普通のお宅です。しかし中に入ると総檜葺き(そうひのきぶき・全面が檜の床)のお稽古場が…!何となく息を呑むようなたたずまいです。

「生徒さんをこの場にお迎えしてお稽古に来ていただくのは私の様々な活動の拠り所です。生徒さんにとっても非日常の、ストレスから逃れてホッとする場でもあり、自分の研鑽、お弟子さんをお迎えしての研鑽の場でもあります。ここで日本の音曲にあわせて踊るわけです。からだ全部で日本を体感して頂けるのではないでしょうか。」

一番最初のお稽古は、このお稽古場への入り方なのだそうです。座って障子を開け、お師匠さん(先生)にご挨拶をしてお稽古場に入っていくのはお茶などにも通じる所作(しょさ・立ち居振る舞い方)。これが上手に出来るようになるのが一番最初のレッスンなのだとか。

「むしろ私は踊りだけでなくお作法や、 檜敷きのお舞台に上がるこの部分を丁寧にやりたいんです。そして同時に着付けもですね。今は着物を着れない方もいらっしゃいますから。浴衣で花火大会に行くのも、着付けを自分でぴっとして、きれいに歩けて、着崩れも直せる、そんなふうになれます。」

奥様が女性の着付けの練習を、男性は琴臣先生が指導してくださいます。琴臣先生はカメラのフレームからはみ出してしまうほどの長身で手足が長いモデル体型。一般的に恰幅がいいほうが良いとされる和服体型ではないのですが、さすがのお着物姿です。このカッコいい着付けテクを習いたいと、着付けだけの生徒さんもいらっしゃるそうです。

琴臣先生のお稽古場には、琴臣先生とお母さまの琴衣(こときぬ)先生の二人の先生がいらっしゃいます。琴臣先生のお弟子さんは男性舞踊家、男の子、着付けを習いたい男性、所作指導を受けたい役者さん、ミュージシャンと幅広く、皆さんだいたい「これがやりたい」というはっきりした目的を持っている人が多いとのこと。琴衣先生のお弟子さんは着物を着てワイワイと楽しくやりたい、華やかな舞台に上がって人前で脚光を浴びたい、という趣味目的の生徒さんが多く、中には50年も通っているお弟子さんもいらっしゃるそうです。

「日本舞踊は高齢になっても現役で踊れるという利点があります。80代の現役舞踊家もざらです。長い趣味としていつまでも華やかさや美しさをキープするのにいいんじゃないでしょうか。」

日本舞踊・花柳流の特徴

日本舞踊にはいくつか流儀がありますが、琴臣先生の踊られる花柳流(はなやぎりゅう)の特徴について伺ったところ、他の流儀に比べて振り(日常的な動きや仕草を舞踊化したもの)の数が多く、繊細な表現ができるように振り付けされているのだそうです。これは初代家元(花柳壽輔)から二代目家元・三代目家元と、歌舞伎だけでなく花柳界の振付もしていたことが影響しているのではないか、ということ。

他の流儀は家元が歌舞伎役者さんであるため、舞台映えを意識して振りは全体に大きいのだそうです。それに比べると花柳流では芸者さんへの振り付けも行っていたため、小さなお座敷でお客様と対峙したときに細かい振りで繊細な表現ができるようになっています。

また、花柳流は歌舞伎役者さんなどのプロの舞踊家だけでなく、一般の方のお稽古に力を入れており、そのために「舞踊譜本(ふほん)」と呼ばれる踊りのマニュアル作りをしているのだそうです。

ちなみに自分でも花柳流の日本舞踊の師範としてお教室を持ちたいと思った場合、まずは一人前と認められた名取(なとり)になるまで3~5年ほどのお稽古が必要です。花柳流の場合はそのあと最低でも1~2年は修行して師範になります。合計で最低でも6~7年、人にもよるが10年ぐらいがお教室を持つのにかかる目安といえそうです。

日本舞踊家が教える「日本人が忘れた日本」

琴臣先生は学校教育に日本舞踊を取り入れようというユニークな活動もなさっています。日本舞踊家から見た礼儀作法を学校生活に活かしてほしいといいます。どうして現代の学校教育に日本舞踊なのか…?そう感じるひともいるかも知れません。

「日本の舞い踊りの源流は神様に捧げる舞です。お能、お神楽(かぐら)も根本は同じです。私たちも捧げるというその心持でやっています。ですので、日本舞踊には日本人の忘れた日本の礼儀作法やしきたりがたくさん息づいているのです。たとえば、どうして日本ではお箸を横に置くかご存知ですか?これは日本舞踊での、扇を前に置いてのご挨拶と同じ。相手と自分の間に『結界』を張っているんです。食べるものの命に対して最初に一線引くことで、尊敬の念を表しているのです。」

扇をさっと横に置くことやお箸を横に配膳することは、狭い空間でもパーソナルスペースを意識して相手を尊重するという日本人の意識の現れなのだそうです。私はあなたの陣地を尊重しています、みだりに踏み込みませんよ、という意思表示だそうです。

「日本では昔から『木』を神聖なものとしてきました。生徒さんを迎えるこのお稽古場も檜葺きで、神様のいる神聖な結界なんです。ほら、神棚があるでしょう?本来はこの舞台全体が一段高くなっているはずなんですが、高齢のお弟子さんもいらっしゃるので便宜上バリアフリーにしているんです。」

最初にお稽古場を見たときにちょっとドキッとしたのは、無意識にもそこが結界だと感じたのかも知れません。

「モテる日本舞踊」も忘れません!

話がとても高尚になりましたが、琴臣先生は今どきのモテそうなタイプ。やっぱり日本舞踊できるって、モテますか?と、思わず聞いてしまいました。

「いま僕のお弟子さんの大学生がハワイ留学に行っているんですが、向こうで披露したいからと2曲ぶんの振りを覚え、浴衣と音源を持っていきました。現地でご披露してすご~くモテているみたいですよ!!」

琴臣先生は日常生活に役立つ日本舞踊を心掛けて教えているそうです。普段の何気ない動作がきれいになる、姿勢に気を遣う、足運びが美しくなる、浴衣デートで着付けをキメられる、宴会でのお酌のしぐさが絵になる…きりがないほど学ぶメリットがあるとのこと。さっそく習いたいと思ったらどんな用意が必要なんでしょうか?

「お稽古は月に3回、1回が40分ほどです。用意するのはお手持ちの浴衣と帯です。足袋だって通販で500円ぐらい、扇はうちでご用意した1500円ぐらいのもので最初は十分です。今どきは歌舞伎役者さんですらユニ〇ロの機能性肌着を着て踊っている時代ですから、肌襦袢とか下着にはこだわる必要はありません。そのうちにお道具を選ぶ楽しさもわかって来て、気に入った絵柄の扇などを買いに行ったりするのも、楽しいものですよ。」

気になるお稽古の費用も入会金1万円、月謝1万円とたいへんリーズナブル。一般的なレッスン教室と違うのは、お稽古場は当該曜日の14:00‐22:00の間ずっと開いており、各人の時間枠は設定されていないということです。来た順で譲りあってお稽古します。琴臣先生のお稽古は金曜日(月3回)、お母さまの琴衣先生のお稽古は月・水・土曜日。年に2回の親睦会(新年会と夏の浴衣浚い)が催されています。

いちばん最初に習う曲は人にもよりますが、30~40代の女性なら『羽根の禿(はねのかむろ)』という愛らしい子供を表現した踊りが適当だそうです。この踊りは「重心を落とす」「お滑り」「三つ首」という日本舞踊の3つの基本が学べるからです。2曲目からはより自由に選曲していき、希望があれば有名な演目『藤娘』にチャレンジすることも可能だそうです。

お教室のある東十条は商店街や小さな飲食店も立ち並ぶ情緒あふれる地域。仕事終わりの生徒さんたちがお稽古後に自然な流れでご飯を食べに行くこともよくあるとか。生活の中に日本舞踊のお稽古を取り入れることで、いろいろな意味で毎日がちょっと変わるかもしれません。日本舞踊はお金がかかる、時間がかかる、そう思って二の足を踏んでいた方がいるとすれば、思い切って始めた者勝ちかもしれませんね。

(写真と文:小林晶子)

お教室情報

■教室…新宿教室・東十条教室・飛騨高山教室
■内容…目的に合わせまして、お一人ずつ丁寧にお稽古いたします。役者・モデルの方への所作指導・礼儀作法や着付も学びたい方・日本の文化を体験したい・など、リクエストをどうぞ!
■稽古日・時間
(1)新宿教室…主に月曜日・水曜日(毎月2日間)
(2)東十条教室…主に金曜日(毎月3日間)
(3)飛騨高山教室…完全予約制(毎月1日間)
■入門料…10,000円(初回のみ)
■お月謝…10,000円+稽古場運営費
※稽古場運営費は、500円となります。
※幼児・小学生・中学生・高校生のお月謝は、5,000円
※学生の方のお月謝は、8,000円
■持ち物…ゆかた・帯・足袋・舞扇

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